視力ってどれくらいあればいいの? その基準は?

こんにちは、現役眼科検査員の小野です。

眼科で検査をしていると、患者さんからよくこんな質問を受けます。

「視力ってだいたいどれくらいあればいいんですか?」

「視力の基準ってどれくらいなんですか?」

週一くらいの聞かれる質問なので、気になっている方も多いと思います。そこで今回はその問いに対する答えを書いてみました。

裸眼視力と矯正視力について

視力には裸眼視力矯正視力というものがあります。字面でだいたい意味はわかると思いますが、眼鏡もコンタクトもしていない時の視力が裸眼視力、眼鏡やコンタクトを付けて矯正した視力が矯正視力です。

いつも裸眼で生活している人にとっては裸眼視力は重要ですが、普段からコンタクトや眼鏡をしている方にとってはさほど重要ではないでしょう。1日のほとんどをコンタクトや眼鏡で過ごす人は、裸眼視力が必要になる場面も少ないですからね。

視力については、裸眼視力にせよ矯正視力にせよ、両目で見た時に1.0以上見えていれば充分でしょう

もし片目を隠しても1.0以上の視力が出るのであれば、かなりしっかり見えていると言えます。ちなみに、運転免許に必要な視力は両目で0.7です。

車を運転する方でも、ひとまず両目の視力が0.7以上出ていれば問題ないでしょう。見づらいという感覚があったり、もっと遠くが見たいという要望があったりしない限りは、特に度数を上げる必要はありません。視力に明確な基準というものはないのです。

裸眼視力0.1以下ってまずい?

眼科では患者さんからよく視力について聞かれます。具体的には、「私ってどれだけ裸眼で見えてる?」という類いの質問が多いですね。

これに対し私が「両目とも0.08です」などと答えると、みなさん結構ショックを受けられます……。「え、私って0.1も見えていないの?」といった風に。

まあ、ショックを受けるのも無理ないですが、実際はそんなにショックを受ける必要はありません。なぜなら、コンタクトレンズや眼鏡の利用者では、視力が0.1以上ある方のほうが少ないからです。

ちょっと例を挙げましょう。視力0.1の方が、視力1.0を出すためにはどれだけ度数が入った眼鏡やコンタクトレンズをすればすればいいのか。

もちろん、それは患者さんの眼のコンディションや乱視の入り具合によって変わってきますが、だいたい-1.00〜-2.00くらいのレンズを付ければ、1.0くらいの視力が出せると思います。

つまり、視力0.1の人が使うレンズは-1.00〜-2.00くらいの度数がちょうどいい。裏を返せば、-2.00以上の度数のコンタクトレンズを使っている方は、裸眼視力が0.1以下である可能性が高いということになります。

さて、ここで問題です。コンタクトレンズの度数の上限値はどれくらいでしょうか。

……なんて言われてもわかりませんよね。実は私も知りません。しかし、ハードコンタクトレンズの中には-25.00以上という非常に高い度数を持つものがあることは知ってます。

世の中には-20.00を超えるものすごく強い近視を持つ人がいる。……そう考えると、-2.00の近視なんてだいぶ軽いような気がしませんか?

実はかくいう私も近視の度数は-2.00くらいなのですが、正直、-2.00なんて近視の程度としてはかなり低い方です。眼科に来る方の大半は、-2.00より度数の高いレンズを使っています。

たかだか-2.00程度の度数でも、それをつけている人の視力は0.1を下回っている。世の中には-2.00よりも遥かに強い近視を持つ人がいる。そう考えると、視力が0.1以下だからといって絶望を感じる必要は全然ないということがわかると思います。

矯正視力はどれくらい必要?

眼科に来る患者さんの中には、「(矯正)視力0.7って眼科さん的にどうですか、やっぱり1.0ないと駄目ですよね」なんて質問をしてくる方もいらっしゃいます。

「私、コンタクトレンズを付けてても0.8しか見えてないんだー」と、やはりショックな声を挙げる方もいらっしゃいます。視力の捉え方は人それぞれです。

でも、眼科の人間から言わせてもらえば、矯正視力でも片目0.8ずつ見えていれば、とりあえず十分な値は出ているかなと思います。必ずしも両目を1.0以上にする必要はありません。

それに、眼科の人間がこんなことを言っては本末転倒ですが、視力なんて曖昧なものです。測る人間の感覚や、答える患者さんの性格でも、けっこう振り幅が生まれてしまうものです。

例えば、患者さんの中には、視力検査をする時に、欠けている方向がわからなくても無理に答えようとしてくる方もいますし、逆にものすごく諦めが早い方もいます。

もちろん眼科の人間は、患者さんの感覚的な個人差ができるだけ生まれないよう視力検査を行いますが、それでもなかなか思惑通りにはいかないもので、どうしても性格による個人差は出てしまいますね。

また、視力というものはその日の患者さんのコンディションによっても変化します。具体的には、眼の乾き、眼の疲れ、精神状態、あとは天気なども影響してきます。

たとえば、夜勤明けでそのまま眼科に来たような方は、疲れのせいで、ちゃんと睡眠をとってきた方よりも視力が出にくくなってしまいます。

視力はあくまで一つの指標に過ぎない。その程度に思っておくくらいがちょうどいいかもしれません。何事もそうですが、あまり数字にこだわりすぎてもいいことはありませんね。

検査員が視力より重視するのは「満足度」

視力はあくまで指標です。だから私たち眼科検査員は、患者さんのレンズの度数を決めるにあたって、その方が「どれだけ見え方に満足しているか」を重視します。

たとえ視力が1.0でも患者さんが「目が疲れる」といえば少し度数を下げますし、逆に両目で0.6しか見えてなくても「私は今のままで大丈夫」と患者さんが言えば、私たちはその度数で処方します。まあ、車の運転をする方だったら最低限0.7以上の視力にはしますけどね。

よく患者さんが気にするのは自分の視力が1.0を超えているかということですが、上にも書いた通り視力に明確な基準というものはないので、必ずしも1.0以上の視力が出ている必要はありません。むしろ両目とも1.0出せていれば、視力としてはだいぶ充分な方です。

目に対してレンズの度数が高めだと、それが疲れの原因になったり、場合によっては目眩などを引き起こしてしまうこともあります。

だから眼科検査員は、R/G検査(レッド/グリーン検査)と呼ばれる検査を行なってその患者さん眼にとってレンズが強すぎないかを確認します。R/G検査とは、赤と緑の中にある二重丸を見て、濃い方はどちらかを答える検査です。

[caption id=”attachment_960″ align=”alignnone” width=”630″]R/G検査指標 R/G検査の指標の例[/caption]

この表を見たときに、赤の二重丸の方が濃ければ眼に対してレンズの度数が弱く、逆に、緑の二重丸の方が濃ければ目に対してレンズの度数が強いということになります。

まとめ

視力がどれくらいあればいいのか、視力の基準はどれくらいかというのは、コンタクトレンズや眼鏡を使っている方なら(あるいはそうでなくとも)誰だって気になることです。

しかし、実際のところ「視力ってだいたいどれくらいあればいいの?」ということはそんなに重要な問題ではありません。

視力1,0というのは魅力的な数値ではありますが、いちばん大事なのは皆さんが快適に暮らせるかどうかです。

運転免許を更新できるだけの視力があって、なおかつ、いまレンズを通して見える世界に満足できているのならば、そのままでいても何の問題はないと思います。